多孔質材料:「無数の小さな穴をもつこと」の利用価値

翻訳の学習記録

「炭」には脱臭効果があり、例えば冷蔵庫などの台所まわりや下駄箱の消臭など、家庭のニオイ対策として利用されています。

私にとって冷蔵庫の脱臭剤といえばキムコ。子供の頃、冷蔵庫を開けると、いつも奥のほうに四角いキムコが鎮座していました。

ところで、炭はどのようにニオイを取り除いてくれるのでしょうか。

炭の表面には、目には見えない小さな穴が無数に空いており、この穴が悪臭成分を吸着することによってニオイを消してくれるのです。

炭はそのままでも脱臭効果がありますが、その効果を高めるためにさらに穴の数を増やした「活性炭」というものがあります。活性炭の表面積は炭の表面積の約5倍。ニオイの吸着力がぐんとアップします。

「無数の小さな穴をもつこと」が産業や身近な生活の中で役に立つ場面がたくさんあります。
この記事では、脱臭剤に含まれる活性炭を例として、無数の小さな穴をもつ物質がどのように活用されているか、また、将来どのような応用が期待されているかについて説明します。

多孔質材料ってどんなもの?

活性炭のように、内部に多数の微小な孔(細孔:pore)を持つ材料を総称して「多孔質材料(porous material)」と呼びます。無数に空いた細孔のため、多孔質材料の表面積はとても大きくなります。

例えば、炭1 gの表面積は200~400 m2(テニスコート約1面分)ですが、活性炭1 gの表面積は1000~2000 m2(テニスコート約4~7面分)にもなります。

活性炭には木材やヤシ殻など植物性の原料が広く用いられています。原料を炭化したのち、「賦活」と呼ばれる熱や薬品による処理を行ってさらに細孔を増やし、表面積を大きくします。炭を活性化させることによって吸着性能を高め、吸着容量を増やすことができるのです。

このように「隙間が多く」「表面積の大きい」材料は、脱臭、吸湿、浄化などの作用に優れています。前述の脱臭剤のほか食品などの乾燥剤、工業的には触媒や物質の吸着・分離など、幅広い分野で活用されています。

孔の大きさによる多孔質材料の分類

多孔質材料の孔以外の部分はマトリックスまたはフレームと呼ばれています。この部分は材料の機械的強度と耐久性に関わる「骨格」であり、材料の全体的な構造を維持します。

多孔質材料は孔の大きさによって次のように分類され、その孔径(pore size)の大きさに応じて物質を吸着・分離することができます。

  • ミクロポーラス材料:孔径が2 nm未満の材料。ゼオライトや活性炭など。
  • メソポーラス材料:孔径が2 nm以上50 nm未満の材料。メソポーラスシリカやメソポーラスカーボンなど。
  • マクロポーラス材料:孔径が50 nm以上の材料。多孔質ポリマーやセラミックスなど。

多孔質材料の一種「MOF」

多孔質材料には、無機材料、有機材料、無機・有機のハイブリッド材料があります。
前述の活性炭は、大部分が炭素で成り立ち、その他、酸素、水素、カルシウムなどで構成される無機物質です。

最近注目されている無機・有機ハイブリッドの多孔質材料のひとつにMOF(モフ)があります。
MOFはMetal Organic Frameworkの略で、金属イオンとそれらを連結する有機配位子からなる多孔質材料の総称です。日本語では、金属有機構造体といいます。

MOFは金属イオンと有機配位子がジャングルジムのように連続的につながった結晶構造を形成しています。このジャングルジム様の格子の中(細孔)に物質を吸着するのです。

MOFの特徴

大きな比表面積

MOFの特徴は比表面積が圧倒的に大きいことです。

比表面積(specific surface area)とはある物体の単位質量あたりの表面積のことで、多孔質材料の特性を表すのに使われます。
材料の内部に多数の微小な孔が開いているということは、たくさんのものを収容できるということを意味します。比表面積が大きい、つまり孔容積が大きいため吸着力もアップするのです。

MOFの孔の構造は多様であり、微細かつ均一な孔を容易に形成することが可能です。

可変性の高い結晶構造

MOFは金属イオンと有機配位子の組合せや配置を変化させることによって様々な結晶構造を形成することができます。これにより、孔の形状やサイズ、分子の収容能力、吸着特性などを制御することができ、用途に応じてMOFを設計することが可能になります。

また、MOFのフレーム構造は非常に柔軟性があるため、吸着した物質が取り出しやすくなります。孔のサイズを調整して目的の物質だけを優先的に吸着させ、分離することができるのです。

このように、多様な構造を柔軟に設計できることから、分離、吸着・貯蔵、触媒、輸送などの機能をもたせることが期待されています。

MOFの応用分野

MOFの実用化はまだ限定的ですが、ガス貯蔵、ガス分離、触媒、センサーなど、さまざまな用途で研究が進められています。

また、MOFの内部の空間は、さまざまな種類の薬物を保持し、それを必要とする特定の部位に運ぶことができるため、新たなドラッグデリバリーシステムとしても注目されています。
例えばpH、温度、または特定の酵素の存在などに応じて薬物を放出することが可能になると考えられます。

MOFをドラッグデリバリーに応用するには、薬剤分子を効率的に収納して体内の特定の部位で放出できること、安定性と生体適合性、製造コストなど、解決すべき課題が多くあり、現在さまざまな改良が行われています。

まとめ

「無数の小さな穴をもつ」多孔質材料は、人工的に容易に合成可能な新たな材料の研究・開発が進められており、このような材料を用途に合わせて最適化することによって多様な機能を発揮し得ることがわかりました。

その中でも、比表面積や多孔性、化学的な調整可能性といったユニークな特性をもつMOFは、将来幅広い用途での応用が期待されます。

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