イートモを制作されている成田さんの医学翻訳ブログで、L-カルボシステイン錠の溶出規格に関する一文が題材となっていました。
岡野の化学で溶液・固体の溶解の項に入ったところで、ちょうどよい機会ですので調べてみました。
日本薬局方とは
薬局方(Pharmacopeia)は医薬品の品質規格や試験方法が細かく定められた基準書のことで、各国で作成されています。
日本では日本薬局方といい、日本語版と英語版がウェブ上で公開されています。
溶出試験の工程に、「約○○mgを精密に量り」という記載があるのですが、約なのに精密ってどういうことなのか疑問に思いました。
英文では、”weigh accurately about xx mg of …“となっています。
実は薬局方には様々なルールがあります。
「約」については、
定量に供する試料の採取量に「約」を付けたものは,記載された量の±10%の範囲をいう.
第十八改正日本薬局方
と規定されています。
また、「精密に量る」については、
質量を「精密に量る」とは,量るべき最小位を考慮し,0.1 mg,10 μg,1 μg又は0.1 μgまで量ることを意味し,また,質量を「正確に量る」とは,指示された数値の質量をその桁数まで量ることを意味する.
第十八改正日本薬局方
と規定されています。
つまり、「約」といってもきちんと範囲が規定されているのです。
約○○mgを精密に計量するといった、一見不思議な表現には理由があるわけですね。
L-カルボシステイン錠について
L-カルボシステインには痰や鼻汁を出しやすくして鼻づまりを和らげる作用があります。
例えば、カルボシステイン錠250mg「JG」はジェネリック医薬品です。
添付文書には、
カルボシステイン錠250mg「JG」及びカルボシステイン錠500mg「JG」は、日本薬局方医薬品各条に定められたL-カルボシステイン錠の溶出規格に適合していることが確認されている。
日本薬局方 L-カルボシステイン錠 添付文書
と記載されています。
カルボシステイン錠250mg「JG」は水に溶けにくいフィルムコーティング錠で、服用後に消化管を経由して腸から吸収されます。溶出性を調節することによって、吸収される有効成分の量が決まります。
ジェネリック医薬品は先発医薬品と生物学的に同等であることが求められます。
そのため、体内での有効成分の溶け方や血液中の有効成分の濃度を調べ、求められる基準を満たしているかを評価する必要があります。
溶出試験について
経口製剤の有効成分の溶け方を調べるのが溶出試験です。
錠剤やカプセル剤などに含まれる主成分が、規定の時間内にどれだけ溶け出すかを測定します。
試験では、最少投与量に相当する試料について調べるため、錠剤なら1錠、カプセルなら1カプセル使用します。
薬局方の医薬品各条によると、L-カルボシステイン錠の溶出規格は、
試験液に水900 mLを用い,パドル法により,毎分75回転で試験を行うとき,250 mg錠の15分間の溶出率は80%以上であり,500 mg錠の30分間の溶出率は85%以上である.
第十八改正日本薬局方
と記載されています。
パドル法では、ベッセルという容器内に試験液と錠剤を入れ、パドル(撹拌用の棒)を回転させて有効成分が溶け出すようにします。体内と同様の環境を作るため容器内の温度は37度前後に保ちます。
このパドル装置の構造や判定法についても薬局方で細かく規定されています。
前述の規格を満たしているかを液体クロマトグラフなどの分析機器を用いて測定します。
まとめ
身近な薬剤一つとっても、体内に吸収されて薬効を発揮させるために様々な工夫がされていることが分かります。
また、その有効性を確認するためには、多くの試験を経て医薬品としての基準を満たす必要があることも分かってきました。
翻訳者としては、薬局方などの基本資料を参照して、医薬品の規格や試験の表現を確認する必要があります。
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